約束の小箱:『キャビン・イン・ザ・ウッズ』



「ある国のある町に、赤毛のきれいな女の子が住んでいました」


物語に用意された最初のお約束は、やっぱりこうだろう。パンツ丸見せも忘れちゃいない。勿論お約束のご褒美だ。
女の子の名前はデイナ。ケルト神話ダーナ神族、その母なる神にちなんだ名前を持つ少女。彼女は友達と連れ立ってある森の奥の山小屋で素敵な週末を過ごすつもりだった。物語のお約束通り、にこにこ笑顔で車に乗り込み、沢山の手続きとお約束をくぐって、みんなで楽しい素敵な週末へ。田舎道を走り、門番に出会い、門をくぐり、谷を抜け、森の奥へ、素敵な山小屋へ。そして彼等は選ぶ。その山小屋の地下室で、好奇心に負けて、ついに「それらの中の一つ」を開けてしまう。


そこから先は誰にだって分かると思う。勿論、鮮血だ。カポーが欲情しセックスを試みようとするなら、画面はたちまち真っ赤に染まるだろうし、男が勇気を見せようとするなら、様々な文法が彼等を楽しく無残に殺すだろう。人に流れる体液の中で、観ている人にとって最もカタルシスをもたらすもの、それは血液に他ならないとでも言うように、素敵な山小屋は容赦なく血に染まっていく。何故ならこれは僕らが遠い昔から分かっていたお約束で、絶対不可避の手続きだから。


デイナはくぐる。扉を開け、蓋を開け、また扉を開け、様々な選択と手続きを経て、様々な可能性をすり抜けて、更に奥へ、小屋の底へ。「死にたくない」という本能こそが自己破壊の根源だなんて思いもしないで。ただ奥へ。奈落の底へ。




遠い海の向こう、とある国に、一人の女性と、ある箱にまつわる昔話がある。
遠い昔、あるものたちによって、一人の人間の女性が造られた。彼女は人の魅力の全てとある箱を与えられ、ある男の元に嫁がされ、ある男は兄の言いつけを守らずその女性と結婚してしまう。そして全てを備えた彼女も好奇心という怪物には勝てず、あるものたちからの贈り物である、“箱”を開けてしまった。箱にはこの世のあらゆる厄災が詰まっており、彼女が箱を開けたことで、世界には災厄が満ち、人々はとっても苦しむことになったのだそうだ。
お話では全てが解き放たれた箱の底に残ったものがたった一つあるのだそうだけど、彼女はすぐ蓋を閉めてしまったので、底になにがあったのか、知っているのは彼女だけ。それは本当にあったのか。あったとして、それはどんなものなのか。


この映画は、それを僕らに教えてくれる。



『キャビン・イン・ザ・ウッズ』最高でした。この映画全てがご褒美です。その世界の土壌がまず素晴らしい。「世界はオカルトという原理を基盤として成り立っている」とかもう大興奮。監督は『クローバーフィールド』の脚本家で知られるドリュー・ゴダード、脚本も兼任。そしてあのジョス・ウェドンが脚本に協力。撮影は『フロム・ヘル』、『ドラッグ・ミー・トゥー・ヘル』のピーター・デミング。編集は『アベンジャーズ』のリサ・セリック。監督以外超鉄板スタッフ。以降ドリュー・ゴダートが鉄板になることを祈る。キャストもかなり豪華で驚きました。主人公に『ハプニング』クリスティン・コノリー、『ヴィレッジ』フラン・クランツ。『マイティ・ソークリス・ヘムズワースは相変わらず脳味噌が無いようでなにより。『バーン・アフター・リーディングリチャード・ジェンキンスと『ザ・ホワイトハウスブラッドリー・ウィットフォードの古参コンビはとてもいい仕事。そして最終盤に現れる「あの女優」で腹筋崩壊。そうだよな!!異形から人類という種を守るのは“彼女”の役目だもんな!!
ちなみに、日本版予告は僕らにとっての「禁断の箱」だ。絶対に開けてはいけない。絶対に開けてはならない。