ぼくらの伯父さん:『イリュージョニスト』

仕事が忙しく、劇場を逃してしまい、脚本がジャック・タチであると知らずに観賞。で、主人公の名前がタチシェフでビビる。「え、これジャック・タチなの!?本当だ、パントマイムだ!!ていうか『ぼくの伯父さん』の演技まんまだ!!」という感じで。

ってこれ魔法使い視点の『シンデレラ』か!!開始20分ですでに傑作の予感。


マジでいい。これはたまらない。台詞が殆ど無く、演技で説明を行うとこにタチ・リスペクトを感じる。エジンバラの意味するところはやっぱり“異世界、お城”なのだろうか。シルヴァン・ショメのタッチって男性より女性のが受けがよさそうだ。


部屋の中にキャラが一人というシチュエーションが多く、そこに傾注された演出が素晴らしい。これ凄い難しいのよ。視線がそのキャラ一人に集中するから。語りも独り言台詞もないので肉体の動きで感情を描かなければいけないし。非常に優良なパントマイム・アニメーション。


アリエッティ』でどこが不満かと言えば、いや凄い沢山あるけど、好きな部分もだけど、ロングショット(階段とか)と微妙なミドルショット(団欒とか)が多い部分だった。『イリュージョニスト』は徹底したカメラの固定っぷりで、もの凄い突き放し感。


ギリギリまで手描きだそうで。3Dは車など、「回転が必要な剛体」に使用されてるそうですが、その合成、調和度が脳汁ダダ漏れの出来。他にも霧にけぶる水面や、バン・デシネ風の英国背景が盛り沢山で、もうたまらない。カオスっぷりは『ベルディブ』に軍配だけど、『イリュージョニスト』はとにかく丁寧で地味な描写が素晴らしい。


『ファンタスティックMr.フォックス』や『メアリー&マックス』などと比べて、『イリュージョニスト』はギリギリまで観客の判断、投影に任せられている作品。能動的でないと汲み取りは難しいかもしれない。趣旨を自発的に想起させるものが寓話であるとすれば、これはおそらく正しい作りなのだろう。


しかしお国は違うけれど、ジャック・タチバスター・キートンの系譜とか勝手に思ってる自分がいる。チャップリンなどが好きな人は絶対に触れておくべき作品だと思う。『アーティスト』や『ヒューゴ』などと比べてもリスペクトの仕方がとても上品だ。主人公が劇場に逃げ込んだ時スクリーンに映されているのは『ぼくの伯父さん』のワンシーン。あのインテリアデザインは今見ても新しい。作画スタッフは主人公の演技のアニメーションを習得するため、『ぼくの伯父さん』と『プレイタイム』を徹底的に観返したそうで、つま先立ちしてから腰を折り、腕を突っぱねてキョロキョロするとことか、完全にジャック・タチ


ジブリが推す作品だけあって、「滅びゆく人たち」の物語だったりする。1959年の英国、ある激変の時代の話。選択には喪失が付きまとい、時代に馴染めない人間は確実に、ひっそりと消えていく。時間経過のコントロールが非常に巧みで、同じ風景の積み重ねは勿論、少女の髪の長さなど細やかな指定がとても心地いい。全ては錯覚かもしれない、おそらくそうだろう。しかし、誰かの中に残るものというのは、きっと、確かにあるんだ。



シルヴァン・ショメとかの監督を観ると思うのだけど、今日本で盛んに行われている「実写と見紛うばかりの精巧な背景」をアニメでやるってことに、どうやら僕はアレルギーがあるらしい。人間っていうフィルターを通さないと伝えられない風景というのが、多分あるんだ。


そう考えると『ホッタラケの島』の僕内評価がグングン上がってく訳で。